そんな日々の中で、裕司はますます隼人に懐き、隼人兄ちゃん。隼人兄ちゃん。と常に隼人を慕っていた。そして、隼人が小学校六年生になった頃。大分、仁志と良い勝負が出来る様になっていたが、仁志も香港婚禮攝影師の頃には柔道二段になっており、高校でも柔道を続け県大会などで優勝したりしていた。そんなある日、いつものように仁志が家で暴れ、隼人が仁志に向かって行った。見事に返り討ちにあい、窓から逃げようとすると、この日は初めて裕司が先に窓から出ようとしていた。隼人兄ちゃん、行こう。と行って窓から飛び出ししていった裕司を追って、隼人が窓から出ると、凄まじいタイヤのスリップ音と、物が派手にぶつかる音がした。その頃、隆行は、部屋の窓を開けて、そろそろ隼人が来る頃だと思いながら、部屋で休んでいると、遠くから派手な事故の音が聞こえたので、その事故を見に行った。現場で隆行が見たものは、壁に激突しているトラックと、その横で、鮮血に染まった肉塊を大切そうに抱きかかえ、ぐちゃぐちゃになった裕司に向かって、裕司、裕司、と泣きながら叫んでいる隼人だった。隼人の家からは、仁志の怒号と、母の抵抗の声が道まで響いていた。裕司が六歳。隼人が十二歳。初夏の出来事だった。