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 「……ごめんね、気が付かなくて」罪悪感で心が埋め尽くされる。近くにあったちょうど良い高さの石の上に彼女を座らせようとした 消除黑眼圈 が、座っているのも辛いようで、サキカにもたれかかってくる。どうすべきかと眉尻を下げて顔をあげると、ニヤニヤと笑うレイトと彼に支えられながらも同じように笑う有舞の姿が目に入り、今更ながら彼女との距離の近さに気がついて、顔が燃え上がるように一気に熱くなった。しかし、だからといって彼女から手を離すことはできない。今手を離したら、彼女は地面に崩れ落ちてしまうだろう。1、2秒の間思案していたサキカであったが、覚悟を決めて彼女の隣に座り、彼女の頭を自らの膝の上に乗せた。ユリアスは小さく身じろぎし薄く目を開けたが、何かを言う気力もないようだ。──もう少し早く休憩を取っていれば。彼女の弱りきった様子に後悔が押し寄せるが、今はそのようなことをうじうじと考えるより、彼女が少しでも楽になれるように何かをするべきだ。“ボックス”を開いて水の入った革袋を取り出すと、顔を上げた拍子にマントのフードを被ったリリスと目があった。批難するようなその表情は、ユリアスが倒れるまで歩かせたせいであろう。「……水、飲める?」ユリアスは小さく頷いた。膝の上に乗っている彼女のか細い上半身を抱き起こし、袋の口を口元にあて、少しずつ水を彼女の口に流し入れる。ユリアスが噎せないようにゆっくりと。しばらくそうしていると、ユリアスが口を閉じようとしたため、口元から袋の口を離した。元のように彼女を寝かせ、袋のキャップを閉めて“ボックス”に放り込む。.

 ここに来ているギルド隊員の伝を借りるという方法もあるが、好んで多くの人と会話を交わす獣人は少ないと聞く。故に知り合いでなおかつ学生の指導を頼めるほど仲の良い間柄の獣人がいる者など、HKUE 傳銷真相くわずかであり、彼らの伝はあまりあてにはできないだろう。アークもしかりであろうが、一抹の期待を胸に彼へと視線を向けると、アークは腕を組んで宙を睨んでいた。「シルシーさんなら……、いや、コータリカさんの方が……」呟きから察するに、彼には思い当たる人物が数人存在するのだ。「四つ足の獣の獣人はいない?」「あー……、シルシーさんがそうだな。たしか豹だか虎だかの獣人で、半獣化までならできるが……」言い淀むアーク。人格にでも問題があるのだろうか。「シルシーさんは完全獣化はできない、って……、あぁ、そこまでできる必要はないのか」――完全獣化など、できる獣人の方が少ない。それどころか、それができる獣人は獣人全体の0.01%にすら満たない。もともと少ない獣人のさらにごくわずかに限られているのである。リリスは獣化ができるようになりたいといっているが、この短期間では精々よくても部分獣化が限界だろう。部分獣化ならば、獣人の子供――教育者(親)がいればの話だが――はできて当然のことであり、獣化の仕方を今まで全く教えられていないリリスにでも、どうにかできるようになるはずだ。「その方とは連絡はとれるの?」「ギルドに行けば多分……。ガイアとサキカも一緒に来るか? 午後はあっちに行くんだろ?」あっち、とはおそらくは学園がある首都のことだ。.

 だが、有舞と自分とでは、持って生まれたものが違う。彼女は、生まれたときから弓の才能があった。近くに住んでいたそれほど実力があるわけでもない弓使いに基本的な使い方を教わっただけで、彼女は防脫髮さな鳥型の魔物を弓で仕留められるようになったのである。──平凡な自分でも、彼女の実力に抗うすべはないのか。答えは一つ。──努力あるのみ、だ。必死に訓練を重ね、今では周りにもその実力を認められているユリアスであるが、有舞にはまだ勝てないでいる。再び会話をかわす仲となった彼女に一勝しても、次の戦いでは必ず負けるのだ。閑話休題。努力を重ね、勝つためにはどうしたらよいのかと考え続けたユリアスは、様々なことに挑戦してきた。そして、これも、その一つだ。ユリアスは自分ができる最高の身体強化をして、地面を蹴った。アンドリューとリリスが立ち向かっているファイアベアに向かっていく。アンドリューの大剣も、リリスの魔法も、弾かれてしまっているようだ。水属性魔法は多少はきいたようで、頭から水を被せられて必死にそれを振るい払おうとしている巨体。ユリアスは風属性の魔法を足の裏から噴射した。そして、ファイアベアの視線の高さまで飛び上がる。双銃から風属性の魔力でできた球を連発させる。そのうちのいくつかがファイアベアの眉間に直撃し、大きな手でそこを押さえたファイアベアは、一歩退く。「──【ローズ】水の章・第十三の術“氷の陣”!」リリスが魔導書を開いて叫んだ。ファイアベアの左の足の下に水色の魔方陣が現れ、左足の膝から下を凍りつかせた。.

 これを使って訓練を行えば身体の動きが制限され、正体を怪しまれるほどの動きは不可能になる。つまりは、これに魔力を流せば、皆の前で全力で身体を動かしても問題はないのだ。しかし、HKUE 傳銷キカの提案は顔を青くしたユリアスやレイトに拒否しかけられてしまう。「そんな……、危ないですよ! 初級魔法だって、当たれば怪我をするんですよ!? 少しは自分の身体のことを考えてください!」「そうだぞサキカ! 全方位からなんて怪我するに決まってる!!」二人の反応には、サキカは苦笑いするしかない。――この提案はどうしても受け入れてほしい。良い訓練になるのだ。「危ないことしないって言ったじゃないですかっ!」ユリアスの言葉が、ぐざりと胸に刺さった。それは屋根上やら木の枝やらを飛び移って走ることに関してではなかったのか――などと言い訳じみたことを口にできるような状況ではない。潤んだエメラルドグリーンの瞳が、サキカの情けない表情の顔を映していた。――今ここでする必要はない。ギルドに戻ってから隊員に協力してもらって行っても良いのだ。しかし、ここでの時間を無駄にはしたくないのである。戦争前に、できる限り鍛え上げたいのだ。「わかった」二人とは異なり、アークは何の躊躇もなく了承した。茶金髪の女性を含めた六人はぎょっとして、アークを凝視する。しかし、サキカにとっては、助け船だ。「こいつがこの程度のことができねぇわけがない」――そんなに心配だったら力を加減すればいいじゃねぇか。アークはしれっとした顔で言った。皆は渋々ながら同意し、そしてようやく訓練が始まる。「サキカの回りに結界を張らせてもらう。これは反対側から魔法が飛んでこないように、サキカ以外を守るためのものだからね。……サキカ、あなたは危なくなったら魔法を使いなさい。多少の怪我はここにいる使用人が治してくれるけど」茶金髪の女性は詠唱をして、サキカの回りに結界を張った。 無属性上級魔法“対物理・魔法結界” を応用した魔法である。効果としては中から外へ攻撃を通し、外から中へは攻撃を通さない通常の“対物理・魔法結界”とは真逆で、中から外への攻撃は通さず、外から中へは攻撃を通すというものだ。このような訓練をする時や、皆で魔物を囲んで討伐する時ぐらいしか使われないものである。.

 にもかかわらず、なぜわざわざ行こうとしているのか。それはおそらく、サキカに墓参りをさせてくれようとしているのだ。――しかし、サキカは煉稀の墓には近づくことはできない 暗瘡微針 サキカは煉稀の家族に嫌われていた。煉稀の家族からしたら、サキカは突然現れた『化け物』で、煉稀の命を奪い去った人物である。故にサキカは、彼らに嫌われていて当然で、今もサキカを赦してはいないだろう。煉稀の家族が彼の遺体を引き取りに来たとき、サキカは彼の家族と初めて会話を交わした。会話といっても、一方的に言い放れただけである。そう、すなわち「わたしたちと金輪際関わらないでくれ、この子の前に再び現れるようなことがあればお前を魔法で斬り刻んでくれてやる」、と。優花――冬也の母親で、一時期は自分の義母であった彼女の墓参りには、冬也が許可してくれるのであれば行くことができるが。「……咲夜は煉稀に会いたくないのか」暗闇の中で、彼の漆黒の片目がこちらを見据えている。その顔に、表情はない。しかし、瞳には僅かに悲しみが含まれているような気がした。「…………会いたいよ。でも俺は、会いに行くわけにはいかない」「言われた、からか?」――サキカは冬也に、煉稀の両親と交わした言葉を、話してはいない。ならば、なぜ、彼はその内容を知っているのだろうか。サキカの疑問を感じ取ったかのように、冬也は口を開く。「……咲夜が煉稀に会いたくないわけがない。それでも行こうとしないのは、負い目があるからか、誰かに言われたかのどちらかだ。……負い目はもう、なくなったただろう? だとしたら、理由として考えられるのは、会いに行かないように誰かに言われたのだとしか考えられない」サキカは苦笑いを漏らした。何をどう隠そうとも、彼には気がつかれてしまう。.
< 2018年05>
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